1. 沈む船の座席争い、してませんか?
「Aチームに入りたい」「レギュラーになりたい」「大会で優勝したい」。私たちは常に、大きな組織(船)の中で、より良いポジション(良い座席)を求めて競争しています。しかし、社会学者の宮台真司氏は、その競争そのものに警鐘を鳴らします。
もし、その船自体が沈みかけていたら?良い座席を確保しても、意味がありません。本当に大切なのは、座席争いではなく、信頼できる仲間と共に、自らの手で小さな「ボート」を作り、沈む船から脱出することだと宮台氏は語ります。
宮台真司氏
勝ち組になったところで(沈む)船の中のいい座席を取りなさいでしょ。船はどうせ沈むんで、そんなところでいい席取ったってどうしようもなくって。そうじゃなくって、…自分でボートを作れ。仲間を助けられるようなボートを作っていくってことですよ。
2. なぜ練習が「作業」になるのか?
思想家ハーバマスは、世界を2つに分けました。これをバドミントンに置き換えてみましょう。
- システムの世界:ランキング、勝敗、評価など、ルールや数字で動く世界。
- 生活世界:仲間との対話、練習での試行錯誤、成長の実感など、共感や言葉で成り立つ世界。
問題は、ランキングや勝敗といった「システム」が、私たちの練習(生活世界)を乗っ取ってしまうことです。すると、練習は「上手くなるための探求」ではなく、「試合に勝つための作業」に変わります。これが、現代アスリートが抱える息苦しさの正体かもしれません。
3. 本当の「国」はどこにある?
宮台氏によれば、かつての日本人にとって「国」とは、自分が所属する「藩」のことでした。会津藩士にとっての国は会津であり、薩摩藩士にとっての国は薩摩。それは、自分たちの生活や文化、仲間が息づくリアルな共同体だったのです。
これを私たちに置き換えると、どうなるでしょう?あなたの本当の「国(チーム)」とは、学校名やクラブ名といった看板でしょうか?それとも、毎日顔を合わせ、互いに高め合う、数人の信頼できる練習仲間ではないでしょうか?
「立派な人になれ」という言葉は、学歴や地位ではなく、仲間から尊敬される存在であれ、という意味でした。強さの基準は、ランキングや勝敗だけではありません。仲間を支え、自らを律する「あり方」そのものが、真の強さなのです。
宮台真司氏
国っていう概念は元々国民国家を意味しない。…国って言うと幕藩体制の300前後の藩のことだったんですよ。…国家よりも我が所属する長州や会津の方が大事で…それが元々日本人の生き方だった。
4. 選手の生存戦略:5つの提言
対談から見えてきた、これからのアスリートが持つべき5つの視点です。
1. 「依存」から「自立」へ
チームやコーチはあなたを守りきれない。自分の足で立ち、仲間と助け合える共同体(ボート)を作る覚悟を持て。
2. 「チームのため」より「あなたのため」
抽象的な「チーム」のためではなく、「目の前の仲間」という具体的な他者のために行動することが、本物のチームワークの原点。
3. 「強い選手」より「立派な選手」へ
判断基準は勝敗だけではない。仲間から尊敬される(リスペクタブルな)人間か、その「あり方」が問われる。
4. 「母なる力」を思い出す
戦術や論理(父性)だけでなく、仲間を想い、自己を捧げる献身(母性)の重要性を再認識せよ。その力が共同体を再生する。
5. 自分の「歴史」を語る
なぜ自分はバドミントンをしているのか?その根源を問い、自分の物語を語ることで、"当たり前"を疑う視点が生まれる。
5. 実践!「自分のボート」建造リスト
知識を行動に変えてこそ、本当の変化が生まれます。今日からできる「ボート作り」の第一歩を踏み出してみましょう。
動画で思考を深める
今回のテーマとなった対談のフルバージョンはこちらから。
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